矢野顕子『音楽堂』
矢野顕子さんの新作『音楽堂』が2月10日に発売になります。
『SUPER FOLK SONG』、『Piano Nightly』、『Home Girl Journey』に続く弾き語り第4集です。
これまでこのシリーズは、エンジニアの吉野金次さんがずっと手がけられていました。
吉野さんが病気で倒れられて中断してしまっていたのですが(経緯はこのあたりを参照)、かなり回復されて再開されたのがこの『音楽堂』です。
既にサンプルを聴かせていただいたのですが、一聴して分かるのはシリーズのこれまでの作品と比べてアンビ重視の音。収録会場は神奈川県立音楽堂というところですが、ここの響きは本当に美しいですね。個人的には、弾き語りのピアノはアンビ多め、オフマイク多めの方がいいなーと最近思っていたので、ものすごくうれしい。
そしてこのシリーズは、ドキュメントなんだと思います。そんな思いを再び強く持ちました。
ぶっちゃけて言えば、ところどころひずんでいるんですよ。でも、それも関係ないな。そういうことを気にする種類の音楽でもないし、録音でもない。
これは僕個人がずっと抱いている印象なんですが、吉野さんは“攻め”のエンジニアなんです。ことに音作りに関しては。極論すれば、たぶん出ている音そのものをとらえようなんて思ってらっしゃらないんじゃないかと思います(怒られるかもしれないけれど、あえてそう書きます)。
“え?そんなんでいいの?”と、僕は若かりしころ思ったものですが、それは僕が浅薄でした。
吉野さんは恐らく、音楽そのものをとらえようとしています。それは昔から一貫しているんです。はっぴいえんどの「風をあつめて」を録っていたころや、佐野元春「サムデイ」を録っていたころから。
矢野さんの演奏というと、つい彼女のコンサートでにこやかに歌い、ピアノを弾いている様子を思い出してしまいますが、このレコーディングの入魂ぶりといったら……すごいですよ。あまりそういうのを表に出す音楽家じゃないと思いますが、にじみ出てくるエネルギーの量といったら、これまでの弾き語りシリーズでは最高なんじゃないでしょうか?
そして吉野さんはそれを「音楽的にジャッジ」する役割を果たしているんじゃないかと思います。実質的なプロデューサーであると言ってもいいでしょう。
個人的には、ムーンライダーズ「犬の帰宅」がうれしかったのですが、矢野さんのパフォーマンスに圧倒されたのはWEEZERの「Say It Ain’t So」でした。
僕は前のアルバム『akiko 』を聴いて、矢野顕子という音楽家はまだまだものすごいものを持っている、底知れぬ人だと思ったのですが、本作のパフォーマンスを聴いてさらにその思いを強くしました。
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