2009年8月29日

福岡伸一『世界は分けてもわからない』

福岡伸一『世界は分けてもわからない』(講談社現代新書/2009年)を読了しました。

福岡伸一さんは分子生物学者で、前著『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)が大変なヒットとなりました。分子生物学というのは、僕にはよくわかりませんが、アミノ酸とか酵素とかたんぱく質だとかの営みが細胞や生物全体の生命とどう関連していくのかを追求する学問だと理解しています。

本著で福岡さんは、2枚に裂かれた絵画やモザイク処理した画像などを例に、ミクロ的な観察を続けることが必ずしも全貌をとらえることにつながっていないと指摘し続けます。例では、どこからどこまでが鼻なのか明確な境界はないとありますし、例えばどこからどこまでが富士山というラインはないわけです。

いろいろなエピソードがある中で、最も印象的だったのがマップ・ラバーとマップ・ヘイター。map loverとmap haterですね。つまり片方が地図好きの人、他方がその逆。地図好きの人は俯瞰的な全体像で把握することを好み、地図嫌いな人は現状と自分との位置関係で判断していく、ということです。これは酵素でのタンパク質分解が後者に近いというたとえでしたが、たまたまこれを読んだ直後に似た話を聞きましたしね。

もう一つ興味深かったのは、生と死の境も恣意的なものだという指摘です。臓器移植をしやすくするために、脳死を法律上の人の死だとしたことは、僕は大いに疑問だったのですが、福岡さんはこれを「生」の方で考えると、受精卵や胚の段階での医学的活用目的での抽出が可能になってしまうのではないか、という指摘をしていました。なるほど。

書かれていることはあくまで福岡さんの目線なので、どこまでが科学的に正しいのかは判然としないのですが、これだけ“読ませる”理系の本はそうそう無いと思います。中学生・高校生の夏休みの読書感想文とかにも良かったんじゃないのかな?(明日読んで、明日中に書くとかでも)。

全く余談ですが、ワタクシ、現在は作文を生業としていながら、読書感想文なるものは大変苦手でした。今は本大好きだったんですが、高校くらいまでは全く読書しませんでしたしね。でも高校くらいから読み始めましたよ。橋爪大三郎『はじめての構造主義』(講談社現代新書) とか。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.impactdisc.net/mt/mt-tb.cgi/159

コメントする