2009年8月27日

コンテンツの二次利用とメディアとフェアユース

とりとめもなく考えたことのメモです。

 

僕の本業は雑誌の編集であり、勤めている会社は総合出版社ではなく、ある分野に特化した専門出版社であります。当然、出版不況と言われている中、ネットでのビジネス展開も考えなくてはいけないのですが(正確に言えば考えるのは僕ではなく会社です)、どうやって収益構造を考えたらいいのか、というのはなかなか難しいところです。

これは日本だけのことなのか、全世界的にそうなのかは分かりませんが、ネットでの産物をビジネス化することに、ものすごくアンチな風潮があるように思えます。ある意味、社会主義的というか、“そんなもの無償でシェアして当然でしょ?”という考え方です。

だからこそフェアユースについての議論が大切なはずなのですが、どうもコンテンツホルダーの方が硬直してしまって、自分で持っているコンテンツをうまく有効利用することを考えず、“そんなのタダで流しちゃったらダメに決まってる”の一点張りになりがちですね。従って“コンテンツホルダーがオーソライズしていないもの”が勝手にネットに流通してしまうのではないかと。

テレビ番組を例に考えてみると、テレビ局がオフィシャルにネット上で番組を公開して、広告なり有償なりでビジネス展開すれば、多少なりともお金が入ってくるのですが、それをしない。従ってYouTubeに勝手にアップされている方をみんなが見る。当然それはイリーガルなので、いつ消滅するとも限らないし、刑事事件に発展する可能性もあるわけです。

ものすごく当たり前のことを書いていますが、しかし、例えばNHKが有償配信を部分的に始めていますけど、それじゃまだまだ弱いのは確かなんです。まあ、NHKは受信料というビジネスモデルを政策的に実現しているので例としては不適当な気もします。

コンテンツホルダーが二の足を踏んでいるのは、コンテンツの二次使用に関して諸々の権利関係が複雑だから、ということもあるでしょう。イリーガルなものは、それをクリアするというプロセスを踏まなくて良い分、フレッシュかつシンプルなんですね。

だからこそ、イリーガルなものとは線引きをしつつ、収益性のある形でコンテンツの二次利用をできるようにするという意味で、コンテンツホルダー側はフェアユースについて真剣に考えなくてはいけないのではないかと思います。

果てさて、問題はどうやって収益を得るのか、ということです。

ネット広告で言えば、Googleが一人勝ちしてしまっているので、ユーザーからどういう名目で料金徴収をするか、言い換えればどういう主旨ならお金を払ってもらえるのかが今の常道なんじゃないかと思います。

例えばYahoo!プレミアムであったり、mixiプレミアムであったりは分かりやすいですね。無償でもある程度使えるけど、お金を払うとこれだけ優遇されますよ、というのはある意味で合理的です。ニコニコ動画も同様のプレミアムだったりします。

あるいは、ゴルフダイジェストオンラインのようにECまでやってしまう、とかね。これは専門性の高い情報を集約したからできた形ですな。専門性で言えば、まあ手前味噌ですが、会社が30年やってきたこととか、僕が8年半やってきたこととか、それなりに自負はあるんですが、ECへの参入障壁の低さを考えると、実はメディアから販売へアプローチするより、販売からメディアへアプローチする方が簡単なような気がします(ただしコンテンツの質は取りあえず捨て置きます)。

難しいなぁ……。

これは、思いっきり極端な話ですが、メディア自体はネット時代なのでフラット化してしまうのはある程度予想できてしまうので、ひょっとするとうちみたいな会社はメディア産業ではなくて、コンテンツだけを売るような形になるのかもしれません。つまり、他メディアに掲載する情報を売る。現状のYahoo!ニュースとかmixiニュースがそうであるように。だってこれらのサイトに出るニュースの発信元がどこかなんて、みんな気にしてないもの。そうなるとメディアのブランド力はBtoBでしか発揮できないんじゃないか、まさにコンテンツの中身だけが勝負できる内容なんじゃないか(そういう形により純化していく)という気もします。

ただ、そうなると、僕みたいな仕事をしている人間はより“編集プロダクション化”していくことになる……なんだかなぁ。納得いかないけど、仕方ないのかなぁ。

最終的には、コンテンツの制作者側がビジネスにならないと、一次的なコンテンツが生み出されないので、空っぽになっていく(CGMばかりに期待してはいけません)。それに歯止めをかけるためには、今ある“コンテンツ利権”の構造は、一回解体しなくちゃいけないとは思います。そうしないと自己崩壊してしまうから(ないしは“みんなが望んだ結果の監視国家”? 東浩紀みたいだな……読んでないけど)。

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コメント[3]

……といろいろ書きましたが、今のところ僕の所属している雑誌は順調・堅調とは言えないとしても、ビジネス的には成り立っているので(そのはず)、あくまで自分があと30年とか40年とか、こうした仕事を続けていく上での展望として書いています。まあ、30年先の話じゃなくて、3年とか1年とか、そういうことだとは自覚していますが。

コンテンツ配信は、二重配信で利益が取れるかどうかの判断が難しいですね。
一度NHKの放送で番組を見た人が、もう一度見るためにどれだけ追加料金を払ってくれるか・・・。
見る側にとって見れば二重払いになるし、「元は俺たちの受信料で作った番組だろ」というクレームもすでにあるらしいですし。
出版社では、CQ出版社が月刊誌で扱った記事を再編集/追記して、単行本で出し直すということを頻繁にやっていますが、逆に、「そのうち単行本が出るから待っていよう」と考えて月刊誌を買わなくなる人が増えました。(実は自分もその一人)
払えるお金は限られていますから、メディアが増えたところで、一つにコンテンツに払えるお金は一回分だけ、というユーザーが多い気がします。

制作側は、同じコンテンツで売り上げアップをはかりたい、利用者は同じものなら1回分しか払いたくない。
難しいですね。

>山口さん
ご指摘、ごもっともです。
ただ、だからと言って死蔵させている間に、コピーが流通してしまうのもいかがかと思います。

しかし、テレビは再放送というシステムが定着していますね。これは要するに二次利用で、確か二次利用費をコンテンツホルダーへ払っていたと思います。それがどうなっているのか、ちょっと知りたいですね。

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