2009年11月 1日

烏賀陽弘道『「朝日」ともあろうものが』

 

烏賀陽弘道さんと言えば、オリコンに訴えられて一躍有名になった元朝日新聞記者のジャーナリストですが、個人的には『Jポップとは何か?』が印象深かったですね。

本書は、烏賀陽さんが“いかにして朝日新聞時代を過ごし、そして絶望し、退職したか”がつづられた一冊でありました。理解不能な上司の命令、人事制度の謎、タクシー券その他の不可思議な点、その他諸々。フェイズとしては、企業として疑問な点、報道の在り方として疑問な点などに分けられるとは思います。

しかし、これを読んだからといって、僕は“朝日ともあろうものが”とも“だから朝日はダメなんだ”とも“マスゴミなんて所詮は……”と言った感想は持ちません。その辺りは織り込み済みです。あくまで烏賀陽さん自身が体験した上での“不合理な点”を書きつづったものであり、それとは全く交差しないところで美点もたくさんあるでしょう。大学の同級生にも朝日の記者が2人いますが、彼ら・彼女らはそれなりにベストを尽くしていると思います。組織に属しているからといって、そこの論理だけに左右されるような人ではない(はず)。

それよりも、僕が感じたのは、烏賀陽さんが書いた「朝日新聞が抱えている病理」は、多かれ少なかれいろいろな企業や組織が抱えている問題ではないかということです。大きくて歴史のある企業・組織の方がこうした問題は抱えがちであるという点は恐らく正しいと思いますが、規模の大小や歴史の長短に関係なく、いろいろな不条理なことはたくさんあると思います。

重要なのは、そうした不合理に無自覚であってはいけないということなんでしょう。

と同時に、烏賀陽さんはフリーランスになるに当たって「できるだけ身軽にいる」ことを意識したとありました。子どももいないし、ぜいたくはしない性分であると。いや、しかし、それはちょっと違うんじゃないかなという気もします。僕もそんなにぜいたくするような趣味はないし、今は確かに経済的な落ち込みもあって“ぜいたくしない”という風潮はあるけれど、子どもを生んで育てるとか、家を持つ(という言い方が大げさなら住むところを確保する)といったことは、ある程度保証されていなければならないはずです。子どもを持たない・不動産を持たないという選択は、個人の趣味のレベルにとどめちゃいかんのではないか、ということは常々思っています(それは本書のテーマを大きく超えるところですが)。

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