水月昭道『ホームレス博士』(光文社新書)
水月昭道『ホームレス博士〜派遣村・ブラック企業化する大学院』(光文社新書)を読みました。
前半は、大学院重点化政策によって大学院生は増えたものの、大学院生やオーバー・ドクターには就職先やポストが無いままなので、彼らが薄給の研究員生活を強いられたり、自分の専門と全く関係の無いアルバイト(コンビニやら清掃員やら)を強いられたり、あるいは非常勤職をなんとかかけもちしながらも年収200万程度のワーキングプア状態にあることを告発する内容。
後半はパチプロで糊口をしのぎながらオーバードクターを過ごしていた筆者(今もって常勤=テニュアでない)の体験談、という構成です。
著者の専門は環境心理学で、がん患者や障害者の生き方、学び方から「学ぶ・研究する」ことの本質を描こうとしています(が、ちょっと蛇足にも思えました)。ちなみに著者は得度を受けている仏教徒(僧籍あり)でもあります。
個人的には、もっと分野ごとの考察が深くあってもいいのではないかと思いました。
文系と理系、修士卒と博士卒などでマトリクスを描くと、より深く問題をあぶり出せるのではないかと。
で、翻って私のことを。
私は法学修士ではありますが、教育法というニッチ分野で、しかも学部とは違う私立校の大学院に行きました。進学する際に専攻も変えたんです。
(もともとは刑事学で、少年法を専攻していました。専門替えは子どもの権利つながり)
大学院時代は、振り返ってもろくな思い出がありません。なにせ人数の少ない学校。ほとんどの科目が教授とマンツーマンです。
しかも学部授業と単位互換がなかったのですよ。
そして、指導教官が学部で持っている講座も2つ出ていました。
そんな具合だから、another day, another report。じっくり文献を読み込む時間なんてなく、ひたすらこなす毎日。一日の睡眠は3〜4時間程度。
その上、学部時代の恩師が主宰するNGOの手伝いに行ったり、院生仲間でのインカレ研究会もあれば、指導教官の科研費研究会、学会の事務仕事などなど、やることは山積みでした。
金銭面でも、とにかくこうした研究会やらなにやらで費用は出て行くし、洋書を注文すれば1回5万とか、そんな調子でした。
ただ、大学院で師事した先生は僕のキャリアプランも考えてくれていて、憲法か行政法に間借りする形でどこか有名校の博士後期課程に放り込もうと考えてくれていたようです。まあ、いわゆる学歴ロンダリングですね。
そんなこんなをしているうちに、2年のときに父が他界してしまって、学業を続けるのも難しくなり、なんとか修士論文は書いて、出してもらったという調子。
論文執筆中に、完全に趣味に走って今の職場に拾っていただいた、という経緯でした。
ちなみにバイト入社で、最初の数年は本当に生活が苦しかったです。でもなりふりかまっていられなかった。
だから、『ホームレス博士』の世界から一歩踏み込んだだけで、なんとか抜け出せたのは僥倖のような気もします。ああ、よかったと自分の身を振り返って安堵のため息をついてみたり。
でもね、学校にいるときは、知的な探究心が満たされる喜びが本当に大きかったし、先生方や仲間もみんな親切。
多少の事務やらなにやらの手伝いはありましたが、理系のようなタテ社会とも違うので、そんなに無理難題を押し付けられた記憶はないんですよ。
(逆に言えば自己責任的ではあったんですが)
あのころの仲間で、先輩の何人かはテニュアになっているんですが、研究者志望で生き残ったのはほんの何分の一かです。
別の専攻では、教授の娘と結婚したというタフな人生を歩んだ方もいたりしましたが……。
と、自分の人生を振り返りながら、自分のことはともかく(今の仕事は天職だと思ってるし)、本書で提示されているような問題は解決しなければいけないと思います。優秀な人材を飼い殺している国なんですよね。
そうした具体的な解決策まで言及してほしいなとも思いました。
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