2012年6月20日

著作権法改悪に対する怒り

違法ファイルDL刑罰化を含む著作権法改正が成立しました。悔やんでも悔やみきれないです。

 

 

もともと、これは「音楽業界」のロビイングで実現したとの由、杉良太郎が議員に働きかけただのニュースになりましたが、実際のところは複数の業界団体の働きかけがあったのだろうと思います。

まあ、業界団体の立場には一定の理解を示しますが、業界内(団体内ではないです)での議論を尽くさないままロビイングに出たのは「ずるい」と思います。

と同時に、国会でロクな審議もしないまま通したのは許しがたいです。何かの取引があったんじゃないかと勘ぐられても仕方ないほどに。

散々言ってますが、違法アップロードされたファイルのダウンロード自体が違法である、ということには異論はないです。だからといってそれを刑罰化することには反対だとずっと言ってきました。

私もコンテンツの仕事をしているので、こうした被害を被るのは嫌です。実際に、部署のコンテンツをアフィリエイト・ブログに勝手に転載されていたこともかつてありました(これはクレームで消えました)。

ですがしかし、そこに刑事法のロジックを持ち込むのはどうにも納得がいきません。刑事法のロジックというのはつまり、警察による強制力を持った捜査が入るということです。

例えば今日仕事で、あるミュージシャンの方に、ライブ映像を収めたファイルを送信しました(これは事実です)。カバー曲もあります。当然、これは業務上のやり取りの範囲ですので、合法です(ライブ自体、適正に著作権処理されたかどうかは私の知らぬところです)。このダウンロード・リンクが万が一漏れた場合、これは即座に違法アップロードになる恐れがあるし、これをダウンロードしたら違法ダウンロードです。

しかし、落とした人が仮にいるとして、「●●さんのライブ映像」としか分からない、聴いてみないことには何の曲かも分からないとしましょう。それでも違法なダウンロードであることには変わらないわけです(故意の認定の話は後で書きます)。後日注:今回の違法対象は「有償著作物等」なので、ここは若干割り引いて読んでくださいね。まあ、何が有償著作物なのかがいまいち分からないんですが。販売されているものに限らない気もします。

楽曲の著作権者(この場合多くはJASRACでしょう)が違法アップロードだと親告したら、ここで捜査がスタートする可能性は十分あります。データが保存されていれば物証はあります。故意がなかったことをどう立証するのでしょうか? そのダウンロードした人のハード・ディスクをくまなくみて、入っている楽曲のファイルが合法かどうかどのように検証するのでしょうか?

僕には、全く訳がわかりません。捜査権の濫用でしかないとしか言えない。

これは今日、実際にやったことを元にした具体例ではありますが、「あいつが違法ダウンロードしている」という親告次第で、捜査権の発動がありえます。また、場合によっては「あいつ違法ダウンロードしているっぽいぜ」と権利者をそそのかして捜査権を発動し、別件逮捕の糸口とする可能性だって否定できません。

「そんなに警察嫌いか?」と言う人もいるでしょう。分かりやすい例では、松本サリンの河野さんはどうして逮捕されたのですか? そしてそれが、我が身に起こりうる可能性を考えたことはありますか?

繰り返し書きますが、僕はコンテンツの違法アップロード&ダウンロードをよいことだとは思っていません。同時に、刑事罰はあらゆる面で限定的に働くべきだと思っています。これは、音楽ファン、映画ファン、ゲーム・ファン……まあなんでもいいんですが、一定の趣味のクラスタの問題ではなく、捜査権の濫用という非常に危険な要素をはらんだ法改正であるため、許しがたいと言っているのです。仮に、勤務先がこの改正に賛成していたら、即刻辞めます。そのくらい許しがたいです。

 

と同時に、こんなことをしたところで、レコード会社や映画会社など、コンテンツホルダーの売上が増えるなんて微塵も思っていません。

CDの売れ行きが云々、ダウンロードではそこまで売れない云々、いろいろ言われますが、それはビジネスモデルの失策なんです。僕は何度も言っていますが、今どきレコード・ビジネスのロジックで生きていけるミュージシャンなんてごく限られたものだと思っています。すべてがそれに合わせる必要はない、フィットするものはそうすればいいし、そうではないものは別の道を探すべきだと。これは出版にも言えるでしょう。付録商法はあまりよいとは思いませんが、一つの策として当座は当たりました。

「じゃあお前は何か答えを持っているのか?」。そんなものあるわけないじゃないですか。あったら今ごろ左うちわですよ。考えて考えて、地道にやって、模索している最中です。

 

レコード会社や音楽業界がやり玉に挙げられますが、真面目に仕事している人も多い……と言ったら言い過ぎだけど、それでもいっぱいいるし、問題意識の高い人だってたくさんいることは僕は身を持って知っています。中には「刑事罰やりすぎなんじゃないの?」と思っているメジャーの人だっていると思います。でも声は挙げられない。なぜか?会社の方針があるからでしょう。それもなんだか悔しいなぁ。

これを期にレコード・ビジネスは朽ちていくという冷ややかな発言も多数見ました。僕はそれを望んでいませんが、そうなっても仕方ないかなという気もちょっとだけあります。

 

あと、最近はジャズ系の方々とお付き合いが増えていますが、彼らの多くはリリース・ベースでの仕事なんて何年も、何十年も前からしていない。だからといってそのモデルをすべてに当てはめられるとは到底考えていませんが、こうして生きているミュージシャンだってたくさんいるんだということもあらためて覚えておいてもらいたいですね。

 

と僕は、久しぶりにやり場のない怒りに打ち震えた一日でした。

 

3.11は不幸な災害&事故(事件かもしれない)だったけれど、僕はこれは日本を立て直す契機かもしれないと思っていました。だけど、ここまでいろいろなことが僕のイメージしていた未来と全く逆方向に進み始めていると、深い絶望を感じます。

 

しかし、国会議員は我々の代表者です。選挙権者が責任を持たねばなりません。最終的にはそれを忘れてはいけないと思っています。

 

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.impactdisc.net/mt/mt-tb.cgi/346

コメント[2]

……と上に書いたようなことをとりあえず置いておいて、音楽の未来だけ見ていきたいなという気持ちもあるのです。
その辺りのことは、この未明のツイートに書いたので、良かったら読んでみてくださいね。
http://twilog.org/impactdisc/date-120621

ちなみに上のエントリ、法的には甘々なものなので、
法的なちゃんとした評価は下記リンクのようなものをご参照いただけると幸いです。
http://www.kottolaw.com/column/000401.html

コメントする