2014年6月 8日

矢部浩志のドラムに心を撃ち抜かれて

カーネーション『タンジェリンとハイウェイ』東京キネマ倶楽部。もちろん注目はゲスト:矢部浩志だ。矢部は椎間板ヘルニアが原因で2009年に脱退して以降、ドラムをたたくことは無かったのだが、昨年辺りからポツポツと再開を始め、鈴木慶一の新バンド、Controversial Sparkにも参加している。しかし、やはり、カーネーションでたたく矢部浩志のドラムを見たいというのはファン心理としては当然だ。

 

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今回は2部構成。一部は現在のサポート・ドラマー張替智宏(キンモクセイ)と3人、あるいはキーボードの佐藤優介(カメラ=万年筆)を加えた4人でしばらく演奏し、1時間ほどで直枝が「少し休憩入れます」と。ここで2部制だということが明らかになる。

実はこの第1部、個人的にはあまり楽しめなかった。何かのチューニングが狂っている気がしていたのだ。直枝のギター(Fender Telecaster Thinline)のブリッジについていたビグスビーはチューニングが狂いやすいはず。でも直枝の歌とギターは合ってる。直枝のギターと大田のベースも合ってる。ドラムとベースもずれてない……??? 楽器の管理は、僕が業界で最も信頼を置いている方の一人、アライ氏が担当しているので、楽器自体のトラブルとは思えない。たぶん何かの細かな掛け違いの集積か、あるいは僕自身が体調が悪いせいか……フラベリックは飲んでないですけど、似たような音感が狂う効果があったりしたら嫌だな…と思って聴いていたこともあり、集中できなかった。

 

さて第2部。下手側袖幕から、エイベックス時代の黒スーツに身を包んだ直枝と太田、そして黒シャツの矢部。マフィアよろしくバキューンというポーズで笑いを取る。

今回のライブは、エイベックス時代のアルバム2タイトルの再発ということもあり、この『LIVING/LOVING』『SUPER ZOO!』からの選曲がほとんどだった。正直、僕はこの2作はそんなに聴きこんでいない。カーネーションが3人になり、3人でのカーネーションのスタイルを模索している時期だった、というのが僕の中の評価だ。しかしながら、第1部で演奏した『SUPER ZOO!』収録の「レインメイカー」など、佳曲も多い。

閑話休題。第2部がスタートすると、安定の矢部ドラム。観客を見渡しても、みんなニコニコしている。

直枝のMCで、第2部の選曲は矢部の意見を大幅に取り入れたとのこと。「これはリリースした当時の後は、全然やってなかった」と直枝が紹介した、先の2タイトル以外から演奏された曲は、冒頭のシンセ・リフが印象的な「恋するためにぼくは生まれてきたんだ」(『LOVE SCULPTURE』収録)。抑制の効いた打ち込みトラックもあり、という曲である。これを選ぶのが実に矢部らしい。彼はダイナミックなドラマーであるが、コンポーザーとしては均整の取れた曲を書く。張替えとのツイン・ドラムや、ドラムを張替にゆだねてのスチール・ギター演奏などを披露し(見ようによっては東ベルリン辺りのテクノ・アーティストのような風貌だ)、矢部は第2部の途中で舞台を降りていった。

もちろんアンコールでは再登場。カーネーションのアンコールと言えば欠かせない「夜の煙突」で、往年のプレイを聴かせる。そうだよ、「煙突」の8分刻みはスネアでするんだよ。

 

さて、第1部で感じた違和感、第2部では全く無かった。理由はドラムかな?と思った。

先に書いたように、『LIVING/LOVING』『SUPER ZOO!』はカーネーションがトリオ編成になってまだ時間がそう経っていないうちの作品だ。5人の時期の曲以上に、ドラムがサウンドを支える部分が大きい。そのイメージで聴いてしまうと、目の前で演奏される音との違いが、どうにも僕にはねじれて聴こえていたのだろう。ほかの理由があったのかもしれないが、僕自身はこう結論づけた。

張替の名誉のために言っておきたいが、彼は非常に良いドラマーで、ここしばらくのカーネーションでの演奏は、実に安定感あり、かつ自在なプレイを聴かせてくれる。サウンドも、あえてパワー・ヒットせずに太い音を聴かせてくれている。違和感を覚えたのは、あくまで僕の個人的問題であり、体調のせいかもしれない。むしろ録音でも張替がプレイしている「UTOPIA」辺りは彼のプレイがジャスト・フィットしていると思っている。

本題に移りたい。矢部浩志のドラムがなぜ僕を惹きつけるのか。今日のライブを聴きながらずっと考えていた。

彼のたたくクラッシュ・シンバルは、銃弾のように僕の眉間を貫く。

タムは、爆弾のように鳩尾に投下される。

スネアの連打は、マシンガンのように浴びせかけられる。

そんなふうに感じられるロック・ドラムをたたくのは、僕にとっては矢部浩志しかいない。ああ、まるで恋する乙女じゃないか!

もう少し専門的にみると、裏拍のタイム感覚、16分をたたくときのわずかなシャッフル感が見事。そしてそれを支えるハイハットのペダル・ワーク……スティックでたたいているかのような明りょうな8分刻みのハイハット踏みでキープできるその技量によって、両手の自由度が高くなる。しかし手数ではなく、音とタイムで魅了する。決して意表をつくようなプレイはしないが、ここでこのフレーズが来ると分かっていながらうならせる。それが矢部浩志のドラムだと、僕は感じている。

実は矢部は、カーネーション脱退以後、自身のGRETSCHのドラム・キットを手放したと聞いた。今回はPearlの金属シェルのキットで、GRETSCHに比べると随分甲高い音がする。むしろ張替のキットの方が、矢部が以前たたいていたGRETSCHに近い。だがしかし、矢部のプレイからは明らかに矢部の音がする。音楽と楽器のマジック。

 

もちろん、フィジカルな問題はそう簡単に解決しないので、ドラマーとしての活動がどのくらい継続できるのかは、本人しか分からない。でも、矢部はアンコールのMC(!)で言った。「またこういう機会もあると思います。カーネーション、あと30年くらいやるよね?」と。

 

エイベックス時代のカーネーションは、もはやその存在すら忘れかけていたCCCD問題の渦中に置かれてしまう、という不幸なことがあったが、今回の再発でそこが払拭し、清算できたことは、バンドにとっても、ファンにとっても喜ばしいことだと思う。バンドは31年目に突入したが、直枝はこう言った。

「もう周年とか、いいんです。新しいアルバムを作りたい。廃盤になるから復刻するけど、新作が売れて、レコード屋さんに常に全アルバムがあるバンドでいたい。どうすれば売れるのかは分からないけれど」

直枝らしい一言だった。一方で僕は、CD、CDショップというフォーマットがどういう形でどれだけ生き延びるのか分からないという点にも、気がついているのだけれど。

文中敬称略

 

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